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 知らない投手を相手にしたとき、打席でどんな球を狙うべきか、と新入生に問う。  臨機応変に対応しますという回答が最近は目立つが、中田はそうは思わない。  外角の直球、それに尽きる。有史以来、捕手が最も要求した球は何かと考えると、明らかに外角の直球だ。 イメージには残らない球かもしれない。あの投手のスライダーには手を焼いた、あのフォークは消えたという話は良く聞くが、外真っ直ぐにしてやられた、という話はほとんど聞かないだろう。  そういった、感覚とは違うデータの積み重ねの実践が、試合である。中田は野球をそう捉えていた。 「しかし」と続ける。「今は別の話をしたい」  それは、と口を開くとばたばたと廊下を走る音がして、青田が教室に飛び込んできた。 「すみません、遅れました!」  リードオフマンの登場だ。何故か上だけ練習着に着替えているのでそれを指摘すると、「ミーティングを忘れていました。すみません」と答えた。  まあいい、こういうやつなんだから。やるときはやってくれるし、期待に応えてくれる。  そう考えていると、再び扉が開いた。 「すみません、掃除当番で遅れました」  猫伏が申し訳なさそうに教室に入る。本当にそう思っているのかは、分からない。  席に着いた三人を見る。     
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