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 ――熱い。暑いではなく、熱い。  灼熱の太陽というのは冗談ではなく、猫伏を燃やしにかかった。  カン、という甲高い音が響くが、もはや猫伏には関係はない。 「ポール間を70本。試合終了まで」  ハカセにそう告げられたとき、「うんざりする」だとか「あきれる」だとかより先に、「なんのために」という思いが胸をよぎった。  なんのために。  走り始めていったい何度自問したかもわからなかった。いや、走り始めてからではない。この夏が始まって以来といった方が正確だ。  期待されているという自覚はある。ハカセは馬鹿ではない。むしろ精密なコンピュータのようですらあった。故に、ハカセ。  少しグラウンドの広い公立高校に、数学科の教員として赴任。今年で7年目になるが野球部の監督に収まってからはまだ浅いらしい。 らしい、というのは猫伏が自分で聞いたわけではないからだ。興味が無いわけではないが、喋りこんで話が弾むとも思えなかった。多分ハカセもそう思っている、と猫伏は思う。  ようやく半分が終わったところで、猫伏は自主的に休憩を始めた。  げんなりするような熱さの中、木陰に座り込みグラウンドを見つめる。     
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