そのルームメイトとの出会い

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 とんでもない相手と同室になってしまった。  私はファンタジー小説が好きだ。その中によく登場する龍のことも好きだ。この広い世界のどこかにいたら素敵だなと思ったことくらいはある。  けれど、まさか龍とルームメイトになろうなんて、思ってもみなかった。  その龍は普通に龍だった。よくあるライトノベルで人型に擬態して人間に紛れて生活している人外ではなく、普通に龍の姿で生活していた。  私はリビングスペースにおかれた机を挟んで龍と向き合っていた。  椅子は一つしかない。当たり前だ。だって龍はふわふわ浮かんでいるんだもの。  龍が浅く広い皿に盛られたチャーハンを私の前に置く。 「とりあえず歓迎会ということで。前の同居人にチェックしてもらっているから、味は保証するよ」  龍の手って器用に動くんだな、なんていう場違いなことを思ってしまう程度には、その龍はめっちゃ普通に料理をしていた。  フライパンを振る龍とか、いったい何の冗談なんだろうか。  私の目がおかしいだけで実は普通の人間なんじゃないかとも思ったけど、その可能性は調味料の瓶が勝手に空に浮かんで料理に振りかけていたことから否定された。 「魔法といっても、私が使うのはそんな大したものじゃないよ。ちょっとその辺の精霊にお願いして手伝ってもらってるだけさ」 「……その辺って……精霊がこんな都会にいるんですか?」  綺麗な自然にしかいないイメージだけど。 「そりゃいるさ。君たち人間だって、昔は森の中に住んでたのにいまはコンクリートジャングルに住んでるだろう? それに龍だっているんだ。精霊がいられない理由はないだろう?」  コンクリートジャングルって言い方がなんとも古いし、「昔は」って見てきたかのようにいう龍。いや、本当に見てきたんじゃないだろうか。 「君のことも知りたいけど、とりあえず聴きたいこともあるだろうから先手は譲るよ。聴きたいことなんでも聴いて? 冷めちゃうから食べながらね」 「……あなたは食べないんですか?」 「人間の食べ物は味が濃すぎてね。もうちょっと自然の味を大事にするといいと思う」  私は観念した。いや、本当は観念なんてできてないんだけど、このままじゃ話が進まないことも確かだったからだ。 「……いただきます」  龍が作ってくれたチャーハンを口に運ぶ。家庭用コンロの火力で炒めたとは思えないパラパラ具合で、ものすごく美味しかった。
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