そのルームメイトとの出会い

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 なんで龍が大学の寮に住んでいるのか聴いてみた。 「私は人間の学問に興味があってね。ついでに色々人間のことを学びたくて、寮に入れてもらったんだよ」 「大学の人たちはあなたのことを知っているの?」 「知ってる人は知ってるね。学長さんとか、教授たちとか。あと食堂のおばちゃんも。同じゼミの子たちも。でも大抵の子は知らないよ。魔法でごまかしてるから」 「つまり、普通の人たちは龍のことが人間に見えてる?」 「うーん、そういう幻術じゃないんだよね。説明は難しいけど、認識をずらすものだから。皆に私の姿はちゃんと龍に映ってるけど、龍だと思えないだけなんだよ。大抵の人はちょっと変わった外国人くらいに思ってるんじゃないかな」 「じゃあなぜ私には最初から龍だと認識できてたの?」 「いま言った通り、別に姿を変えてるわけじゃないし、認識のずれは一緒にいる時間が長ければ長いほどそれを自覚しやすくなるんだ。だからルームメイトにはそもそも利かないようにしてる」 「私がもし一目散に逃げ出してたらどうしたの?」 「その時は魔法でごまかして、部屋を変えるように仕向けてたね。けど、そうはならないって確信はあったよ?」 「どうして?」 「だって君は一度この寮を見学に来てるじゃないか」  ああ、なるほど。どこからか見られてて、大体の人となりは把握されてたわけだ。  それにそもそも、大学側が龍のことを許容してるのなら、逃げ出してどこに相談しても受け流されるだけだろう。こうして直接対面して話してなお、現実感がないんだし、どこにどう相談すればいいかもわからない。  龍が実在するなんて、考えてみれば世界がひっくり返るような大事件なのだけど、私にはそれをどうやったら偉い人に信じてもらえるかわからないし、それによって起きる騒動に巻き込まれるのもごめんだった。  平穏無事に済むのなら、別にルームメイトが龍でも構わない。 「わかった……これからよろしくね。えーと……」 「そういえば自己紹介もまだだったね」  そういうと、その龍は長い身体を器用に折り曲げて頭を下げる。 「私の本当の名前は別にあるけど、ここでは『タツミ』と呼んでくれ。わからないことがあったらなんでも聴いてくれていいよ。真理に関することは精神を病むからおすすめしないけど」  快活に笑うタツミ。  いや、笑えない奴でしょ。それ。
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