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こうして私とタツミの共同生活はスタートした。
そして最初の衝撃を乗り切ってしまえば、タツミとの共同生活は案外普通の生活だった。
何せタツミはものすごく人の世界に馴染んでいるのだ。朝は目覚ましをかけて起きるし、テレビだって見るし、腕時計を腕に巻いて時間をしっかり計っていたりする。
タツミは何回生とかいう立場ではなく、何年にもわたって好きなように好きな講義を受講しているらしく、この大学のシステムやルールにめちゃくちゃ詳しかった。
だから講義選びで迷っていると的確なアドバイスをくれたし、わかりにくい暗黙のマナーみたいなものも全部丁寧に教えてくれた。
そして何より、タツミは自分が食べられるものが限定されているせいか、食事当番を全面的に引き受けてくれて、その見事な手料理を毎日ごちそうしてくれた。それがまたレパートリーも豊富で、どれも美味しくて、私は実家で暮らしていた時よりも太ってしまったくらいだった。
最初は面食らったけど、一ヶ月もした頃には、すっかりタツミの存在に馴染んでしまっていた。
「あー、疲れた-。タツミ-。今日のご飯はなに?」
今日の大学の講義を終え、寮の部屋に帰ってきた私は、だらしなくソファに寝転がりながらキッチンに立つタツミにそう問いかけた。タツミはその長い身体をふわふわ浮かべつつ、包丁を使って具材を切っている。
そういえば龍がエプロンをしている姿も、一週間くらいは驚愕して見つめていたけど、いまやすっかりおなじみの光景だ。使い込まれて紐のあたりがボロボロだし、新しいのプレゼントしてあげようかな。
「肉じゃがだよ。今日は牛肉だけど、君のご両親がどんな肉じゃがを作っていたか教えてくれたら、次はそれを再現してみるよ」
ずっと引き受けていたためか、タツミって料理スキルめちゃくちゃ高いんだよね。
「……どんなのだったかなぁ。食べた覚えはあるんだけど」
考えてみれば毎日色んな料理を食べさせてもらって、美味しかった記憶もあるんだけど、細かい内容までは覚えてないというのは、不義理かもしれない」
「そんなに気にすることはないよ。もちろん興味を持って、細かいところまで覚えていてくれたら嬉しいけどね。毎日その都度美味しく食べてくれたら満足さ」
私が考えていたもやっとすることをさらりと解消するタツミ。
この辺は色んな人と暮らしてきた経験なのだろう。
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