10/15
前へ
/15ページ
次へ
主人公は少女に連れられて檻を出る。すれ違う人々に奇異の目で見られながら、公園のような場所につれてこられる。月面の基地はドームで覆われていて見上げると赤い星が浮かんでいる。 「気持ち悪い色よね。あの星は昔は青かった。あなたの記憶にある星もそうでしょう。人工知能に見せられていた偽りの現実だとしても、それは人工知能が過去の地球の姿を模倣したもの。過去存在していた現実でもあるのよね」 少女は寂しそうに語る。 「私たちはあの赤い星を昔のような美しい青い星に変えたい。あなたの記憶にあったような星にね。いつになるかはわからないけれど」 「僕が協力すればそれが可能なんですか」 「ええ。不可能ではなくなるわ」 「でもそうなったら地球の人たちは…」 「ハッキリいうわね。地球の人間のことは諦めなさい」 「えっ」 「人工知能がなぜ人間を作り始めたか、その理由はもう判明しているの。奴等はね、いざというときのバックアップに人間を利用しようとしたのよ」 「いざというときのバックアップ?どういうことですか?」 「例えば、隕石の衝突。例えば、超新星爆発による大規模な電磁障害。それらにより人工知能のネットワークや、あるいは人工知能自体が機能障害をおこしてあらゆる電気的な回路が健全な状態を維持できなくなった場合、奴等はその復旧を生物にやらせようと考えたのよ。当然そんな事が可能な生物は……人間しかいないわよね。だから奴等は保存していた人間の遺伝子を使い人工子宮を作って人間を生産し始めた。都合のいい教育を施し、速やかに文明を再興出来るように」 「そんな……」 「本当のことよ。あなたは……というより、あなたのロットは農業従事者としての教育を受けているわよね。最大級の災害が起きたときのみ解凍されるバックアップの人間。あなたが解凍されるということになれば、人類滅亡の危機ということになるのよね」 「解凍されるって……」 「あなたたちは教育を受けた後は必要とされる時が来るまでコールドスリープで保存されるのよ。それが人工知能が実行しているバックアップ計画。1クラス1ロットとして管理されるパッケージ。農民から復旧作業員までさまざまな役割を人間に教育して、必要な分を解凍。未曾有の大災害の時には一時的に文明を人間に委ねることも計画されていて、そのために人間が自立可能であるようにって教育しているんだって。ほんとムカつくわよね」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加