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その獣は圧倒的だった。主人公はなすすべもなく敗れ、コックピットの中で頭をぶつけ血を流していた。
(勝てなかった)
話にもならなかった。奇跡なんてなかった。あったのは無慈悲な現実のみで。
視界が赤く染まる。ロボットの外の映像は主人公の脳裏に流れ込んできていた。目で見るのではなく、感じていた。それが真っ赤だ。
(ていうかここ、どこだ?)
獣と自分の乗るロボットは、まるで血で染めたように真っ赤な場所で戦っている。それは明らかにおかしなことだった。
自分達の住んでいた町で戦っていたはずだったのに。真っ赤だ。起伏はにている。というか同じだ。塔もある。だが真っ赤だ。
それにも増しておかしなことがある。それは対峙している獣の姿だった。獣が、獣じゃない。まるでロボット。不気味な生き物ではなくて、ロボット。
しかし脳はそれを獣だと認識している。脳というか、ロボットが。いや、脳が。
激しい出血により溶けそうになる意識の中で主人公は
(もう……だめだ。頭がもうおかしくなってるんだ。なら、せめて……最後に)
自分の住んでいた町を見て死のう。そう思って主人公はハッチを開けた。ふと死んだ親友のことを思い出した。
(そうか。あいつも……)
主人公はコックピットのハッチを開く。するとそこには、脳に流れ込んできたままの世界が広がっていた。
「えっ」
赤い大地。ロボットに姿を変えた獣。
「どうなってるんだ。意味がわからない」
もはや主人公に戦意はなかった。それが伝わったからだろう。獣というロボットのハッチが開いていく。中に乗っているのは宇宙人ではなく、少女だった。
(どうなっているんだ)
相変わらず脳は相対するロボットを獣、そして少女を異形の宇宙人だと認識しようとする。
「うああああああああ!」
そして主人公の意識は途切れた。
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