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気付くと主人公はベッドの上にいた。ベッドというにはあまりにも陳腐で薄汚れたものだが。
「気付いたのね」
辺りを見ると鉄格子に囲まれた檻の中にあの少女もいた。机に座り、主人公の様子を観察しているみたいだった。主人公は自分が宇宙人に捕まったのだと理解する。しかし、その宇宙人はどうみても人間そのものだった。話している言語も地球のものだ。
「ここは……」
「月よ」
「月だって?」
「ええ。あなたにはあそこの実態を話してもらうわ。そのために生かして連れてきたのだし」
「あそこって……」
「地球に決まっているでしょう。ここに来て座って」
そういって少女は主人公を机に誘い椅子に座らせ写真を出した。
「なんだこの気持ち悪い星は」
「地球よ」
「何を馬鹿なことを。地球はもっと青くて」
「それは奴等に支配される前の地球」
「奴等?」
「ええ。私たちは奴等に敗れ地球を追い出された人間。今は地球人ではなくて火星人ね」
何をいっているんだ?と主人公は思う。人類は月にも行っていないのに火星になんて行けるはずがない。
「奴等とは私たちは元地球人が産み出した人工知能……つまり機械の事よ。もう何百年もの間、地球は人工知能に支配され続けているの」
「何を馬鹿な」
「本当の事よ」
そういって少女は機械の断片、小さなチップを机に置いた。
「あなたたち地球の人間は人工知能によって産み出されると同時に脳にチップを埋めこまれ、人工知能が拡張した偽物の現実を見て生きているのよ。あなたの脳は悪いけど勝手に調べさせてもらったわ。記憶の映像化も済んでいる。見る?誤認していた偽物の現実ではなく、本物の現実がそこにはあるわよ」
主人公は促されるままその映像を見る。
帰宅時の記憶のようだっと。いつもの通学路も町並みも、全てが血のよう赤く染まっている。辺りには無数の四角いボックスがあり、それが主人公の姿を追っている。
「異常な監視カメラの数。吐き気がするわよね。私たちは既に人工知能が星と一体化していると捉えているわ。つまりあの四角いボックス1つ1つがあの赤い星の目。人工知能には美的観念が存在しないないようね」
主人公は呆然とその映像を見る。映像の中で主人公は家にたどり着いていた。庭に植えられていたはずの花や芝生など、全てが存在しない。
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