第1章

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 彼女も、埼玉難民の一人である。  父親が死に母子家庭となったが、科学が発展しすぎた現代は失業者も続出した。パート、専業主婦がやる仕事のほとんどはもちろん、タクシー運転手、工場の製造、金融や病院などエリートが集まる場所でも失業者が目立ち、現在は職の争乱時代となっている。 (だから、私が稼がなきゃ)  ミナミが成人して早々にダイバーになったのも無理はない。  AIによって失職せず、なおかつ現代で一番儲かるのは葬儀屋――いや、あともう一つある。  ダイバーだ。  皮肉にもダイバーは、AIを持つロボット群より優れている。彼等に負けない運動能力、的確な判断能力、そして何より、ハザードと化したダイバーには特殊能力を持つ者もいるのだ。 「総員、装備!」  社長の声が、池袋駅構内にとどろく。  素通りしていた一般人も、ダイバー達に視線をやった。幼少の子供は、ダイバー達が装備を整えるのを眺め目を輝かせたりもしたが、母親がすぐ手を引っ張る。  ダイバー達は装備を整える。ヘルメットをかぶってない者はかぶり、武器はここで出すとうるさいので、キューブがちゃんとあるか確認するだけ。個人で確認すると、次にチームごとに確認作業。二人一組で互いに確認、次にメンバーを変えて、全員が四人一組で一巡するように確認していく。 「総員、出撃!」  目標はただ一つ、ハザードの回収。  給料は出るが、ハザードの回収はそれ以上に魅力的だ。  しかし、全員が欲にかられてバラバラに行動したら連携が取れない。そのために四人一組とチームを分ける。  元々、穴には大勢で挑むことはできない。  穴にはそれぞれ大きさがあるが、ここは一度に二、三人、がんばって四人入れるくらいだ。  穴は入った時間に間隔があると、別の世界に飛ばされることもある――別の世界というか、風景は同じなのだが、先に入った者はおらず、自分だけ別の場所に、ということになってしまう。  そのための、部隊編成。  しかもだが、一度は行ったら十分以上は滞在しないと穴からもどれない。入れないのだ。 「大丈夫だよ、ミナミさん」  一応、チームのリーダーである高田がいう。  皆とは違い、脱サラして入ったくちで、歳は四十を超える。  だからか、発言も行動も落ち着いて的確で、大人らしい印象を唯一持っている。
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