第1章

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 高田は、何するんだとヒナタに言おうとするが、光が一瞬目に入ったので、すぐに壁を見やる。穴が空いている。穴とは現実世界と異世界をつなぐ穴のことではない。光らしいものに貫かれた、ここの壁に空けられた穴のことだ。 「あ、あぁぁ」 「敵か」 「前に来た人は全滅か」  冷静に語る、二人。  なつみと、ヒナタ。  対して、ふるえて腰が上がらない高田。  そして、状況は理解したものの、いや、理解したからこそ次の行動に移れないミナミ。 (え、え? え、いや、大丈夫って。大丈夫だって、さっき高田さんが)  当たり前のことであるが、高田の言うことが全てではない。彼は穴の先に広がる異世界に通じて全部を知っているわけじゃないし、多少経験はあっても、一番のベテランでもなければ、エースでもない。  だから、大丈夫なわけがない。  保証なんて、どこにもない。 「え?」  次に見たものに、ミナミは凍る。  異世界の穴は、池袋駅構内の東口トイレのまんまにつながっていた。といっても、現実世界のとは大分違うのだろう。現に、それはトイレに入ってきて、ミナミ達を眺めていた。  4329042?  理解不能な音声。  それのシルエットは人というよりクモのようだが、それには頭があり、足があり、腕もあり、胴体もある。ただ、人体のありかたが普通と異なっている。腕は一番下にあり、それが十もあり、足は羽根のように背中から生えていて、頭は何故かサカサマになっていて、トリックアートのようにサカサマの顔が、ミナミ達を眺めていた。  仲間内では、『サカサ』と呼ばれるモンスターだ。  即座に銃声。  ヒナタが発砲したようだ。  彼の右手には拳銃がにぎられている――拳銃というには、小さすぎる、というかおもちゃにしか見えない外観。それは色を塗ったダンボール箱でできてるみたいだ。正方形が横に四つ並び、それを持つためにタテに細長い長方形が一つ、トリガーといっしょについてるだけの銃。  ――キューブを解放した姿。  あきらかにものの大きさが違うのに、あのキューブはこの銃に変身できた。  そして、あのモンスターを一瞬で屠るほどの光線を放った。 「キューブを解放して、ミナミさん。どうやら、いきなり土壇場のようだ」 「運が悪かったな。ま、しょうがない」  ヒナタとなつみは、冷淡に語る。
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