第1章

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 え、え、え、と全く反応できないミナミに、ヒナタは有無をいわさず行動に移る。彼女のベストに入っていたキューブを取り出し、それを彼女にふれさせ、起動(openeyes)。「しっかりとにぎって。僕らには撃てないようになってるけど、銃口は気をつけて。研修はしたよね? それを思い出して。移動時も、撃つ瞬間になるまでトリガーに指はかけない。そして、銃口は上に向けて」  ヒナタは、さっきまでのオドオドっぷりは欠片もない状態で、しゃべった。  さっきまでとは別人だ。 「……あ、はい」  つい、本当に別人が入ってるのでは?  あ、そうか。私が気づかぬ内に、ヘルメットの中で入れ替えが行われたのか、と意味不明なことを考えてしまうミナミ。  いや、そんなわけない。 (そういえば、穴に入ると別人になるってケースがあるって)  穴は、人を変える。  人体に強い影響を及ぼす。髪の色、目の色、そして手足や人体の一部が変形する――だけじゃない。もちろんだが、精神も体の一部だ。肉があますことなく影響を受けるのに、精神が無事である理由なんてあるはずがない。  心は、目に見えてないだけで、もっと歪んでしまっている。  ヒナタは構えを取る。  おもちゃのような銃――仲間内ではトイガンと呼ばれるそれを構え、グリップをにぎる方の手はバトンのような円筒のものをにぎっている。それは、これまたおもちゃのような武器で、仲間内ではライトセ――は禁止されてるから、ビーム剣。そう、円筒から光の剣が出るやつなのだが。 「――全滅か」 「だね」  そばにいるナツミが応答する。  先に来ていたダイバー達は全滅していた。  というか、穴に通じていた異世界、池袋駅東口の周囲は地獄絵図だ。人体をかまれ、喰われ、今もモンスター達に砕かれていた。もう、生きてる者はいない。それは分かる。頭が無事な死体がまず見当たらないし、どの死体も胴体がタテ半分にちぎれていたり、手足がなかったり、腹をさばかれて腸を巻き付けられたりと、前衛アートでも目指してるのかというありさま。  この惨状の元凶は、二足歩行のモンスターだった。  48092742420? 049320842?  全裸。  手足というか、全体が異様なほど長い。
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