第1章

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 ハザード武器は、なぜか近接武器の方が強い。トイガンを何発当てても死なないモンスターがいる一方、ビーム剣はどんな敵も両断できる。さらにいえば、スーツを着た状態のダイバーは身体能力が異常に高まっているため、というのもある。常人が一呼吸した瞬間、その短い間だけで間合いをつめることも可能なのだ。 「……はぁっ……ぁっ」  だが、ダイバーは不死身なわけでも無敵なわけでもない。  体力は一流の運動選手なみにあるものの、ここは戦場だ。一瞬でも間違えれば、いや間違えなくても死ぬかもしれない、それこそここに最初に来た者達のように運が悪ければ誰でも死んでしまう理不尽な異世界――ゆえに、精神の疲労はすさまじく、肉体は精神に引きずられて体力も消耗する。  壁や天井を跳躍するのは、スーツの力をそのまま使ってるので案外負担は少ない。それよりも、敵の挙動を観察、分析、攻撃をされる度に、攻撃する度に、神経をすり減らす方が負担が大きかった。  ヒナタの性格が極端になったのも、このせいかもしれない。  摩耗した精神は現実世界で、数秒先は殺される危険性がない現実世界で行き場を失い、とまどっていたのかもしれない。 「……あぁ、くそっ」  一瞬、ヒナタはよろめいて見せる。  すると、それにつられてさかさ頭のモンスターが一体、迫ってきた。  すかさず、ヒナタはそいつの足を切断し、トイガンを頭に命中させた。他のモンスターもつられそうだったが、それを見て足を止めた。 (そう、何度もできる手ではないか)  気がつけば、床には大量のモンスターの死骸。  黒づくめだったヒナタのスーツは血だらけだ。赤、そう人間と同じ赤である。  その赤が池袋駅構内全体に飛び散っていた。肉片も、汚らしい水を吸ったティッシュのように落ちていて、フィクションでもここまではできないという地獄絵図。これだけで気が狂いそうだが、ヒナタにはそれをする余裕がない。狂気に墜ちる前に、己を救わねばならない。  目に見えるモンスターは四体。  一体はサカサで、ヒナタの背後に、離れたとこにいる。  前方にはナガイが二体、横に並んで立っている。じぃーと、ヒナタの様子をうかがっている。度々、ヒナタのうしろにいるモンスターと目を合わせて、合図のようなことをしている。  あともう一体は、死体の中に紛れて生きているサカサ。
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