第1章

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   0  昔のことだ。  彼は埼玉から東京まで出かけた。  たしか、ゲームのイベントでだ。まだ発売されてないゲームが展示され、子供には夢の国に思われるものだが。 (なんか、最近のゲーム微妙だな……)  と、生意気な子供は電車の中、いっぱしの批評家のようにブーたれていた。 「未来がないっていうか」  そこで急ブレーキ。  電車が止まる。大勢の乗客が倒れ、悲鳴を上げ、怒声も聞こえた。  彼も倒れた。 「いてて……なんだよ一体。え?」  赤羽駅付近からそれを見た。 「ない?」  駅の向こうが、途中で消えていた。  線路どころかそこにあった地面や建物も丸ごと消えていた。  あとで分かることだが、埼玉県のすべてが消えたらしい。 「えっ――」  未来がなかったのは、彼の方だ。  001  池袋駅構内。  東口のチェリーロードに面した男子トイレは現在禁止で、入り口を厳重に『keep out(キープアウト)』のテープでふさいでいる。  素通りする人々は見向きもしない、数十名のダイバーが整列してるのにだ。  ダイバーは、全員爬虫類のうろこのような模様のスーツを着ている。スーツはビシッと肌に張り付き、黒色、筋肉の凹凸や体格をあらわにする。上にはお情けのタクティカルベスト。防弾機能はなく、モノを携帯しやすくするだけの役割。  もちろんだが、彼らはこれから海に行くわけじゃない。確かに、潜りはする。だが、潜るのは異世界に通じる穴で、だ。 「あの、すいません。トイレ!」  元気よく手を挙げる者がいた。  からだの形状からして男。背は一七〇前後、声には張りがあり、鍛えてはいるが発した言葉は子供のようだった。 「また、きみですか。早く済ませてくださいね」  小隊長の高田(たかだ)が告げる。  隊から一名、彼の監視がつく。彼が所属する隊ではなく、別のだ。それもあまり関わりがなさそうな人物。ひそかに連携して逃げられないようにするため。  そういうルールが、会社にある。 「てめー、いつもトイレだな。ガキじゃないんだから、始まる前に済ませとけよ」 「す、すいません」  いっしょに行くことになった男は不満げだったが、しばらくして考え直す。 (いや、実際にまだガキだったか)  彼はいま、十七歳だ。  Name:八代日向(やしろ ひなた) age:17 sex:男
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