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歩く度に、周りから視線がくる。何度か話しかけられることもあったが、次第にうっとうしくなり、足早になって逃げるようになった。それでも追っかける者もいて、中にはマスコミらしい人物もカメラを回してついてきていた。
「……はぁ、なんで、みんなついてくるんだ」
彼は雑居ビルの屋上にのぼって、逃げ延びた。
みんな、八代日向、八代日向と。
自分を彼と勘違いして、みんな追ってくる。
どういうことだろう。
彼は考えた。自分は八代日向に憧れ、夢見る程度の一般人なはずだ。家に帰れば親がいて、学校に通えば友人もいて――。
「家、学校?」
彼は首をかしげる。
そんなものとっくの昔になくしたような気がした。
ネットに接続し、彼だけに見える空間液晶で情報を検索。
ダイバーの情報は一般サイトでまとめられ、閲覧することができる。中には関係者らしい書き込みもあり、本当は違法なはずなのだが、裏情報まで探れることができる。
ダイバーやハザード、穴のことを畏怖し、嫌悪してるわりには、興味津々なのだ。
外国では穴を題材にした映画も多いらしい。
穴。
それほど魅力的なのだろう。人知を越えた異世界、危険性は承知の上で、机上の空論というか他人事なのをいいことに、まるで漫画やアニメを消費するように、ダイバー達の情報を外から眺める一般人。
まとめサイトはいくつもあるが、その中でもっともメジャーな、やるおんにつなげる。ここはネットの意見をそのまままとめてるサイトで、人もここまで腐るのだなという発言や思想も多い。
そこで八代日向は大々的に取り上げられていた。
十七にして、無敵のダイバー。
世界中を見ても、これほどのダイバーは珍しいと注目されている。
「………」
それを、八代日向は見ている。
まるで、自分に似てるな。
八代日向は、そう思った。
「……くっ」
むねが苦しい。
視界に<緊急連絡、緊急連絡>と表示され、かかりつけの病院の医者に連絡がいった。ありがたいシステムだこと。ちょっとしたきばらしも、医者に妨害されてるようで、日向は憂鬱になる。
「日向くん、大丈夫? ドクターの榊よ。今、体調は」
「ドクター、僕は日向じゃない。八代日向じゃないよ」
「あぁ、そうね。ごめんなさい。今日はそうなのね。あなたは、八代日向じゃない」
「僕は――」かといって、他の名前が浮かんでこない。「ともかく、八代日向じゃないんだ」
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