第1章

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 歩く度に、周りから視線がくる。何度か話しかけられることもあったが、次第にうっとうしくなり、足早になって逃げるようになった。それでも追っかける者もいて、中にはマスコミらしい人物もカメラを回してついてきていた。 「……はぁ、なんで、みんなついてくるんだ」  彼は雑居ビルの屋上にのぼって、逃げ延びた。  みんな、八代日向、八代日向と。  自分を彼と勘違いして、みんな追ってくる。  どういうことだろう。  彼は考えた。自分は八代日向に憧れ、夢見る程度の一般人なはずだ。家に帰れば親がいて、学校に通えば友人もいて――。 「家、学校?」  彼は首をかしげる。  そんなものとっくの昔になくしたような気がした。  ネットに接続し、彼だけに見える空間液晶で情報を検索。  ダイバーの情報は一般サイトでまとめられ、閲覧することができる。中には関係者らしい書き込みもあり、本当は違法なはずなのだが、裏情報まで探れることができる。  ダイバーやハザード、穴のことを畏怖し、嫌悪してるわりには、興味津々なのだ。  外国では穴を題材にした映画も多いらしい。  穴。  それほど魅力的なのだろう。人知を越えた異世界、危険性は承知の上で、机上の空論というか他人事なのをいいことに、まるで漫画やアニメを消費するように、ダイバー達の情報を外から眺める一般人。  まとめサイトはいくつもあるが、その中でもっともメジャーな、やるおんにつなげる。ここはネットの意見をそのまままとめてるサイトで、人もここまで腐るのだなという発言や思想も多い。  そこで八代日向は大々的に取り上げられていた。  十七にして、無敵のダイバー。  世界中を見ても、これほどのダイバーは珍しいと注目されている。 「………」  それを、八代日向は見ている。  まるで、自分に似てるな。  八代日向は、そう思った。 「……くっ」  むねが苦しい。  視界に<緊急連絡、緊急連絡>と表示され、かかりつけの病院の医者に連絡がいった。ありがたいシステムだこと。ちょっとしたきばらしも、医者に妨害されてるようで、日向は憂鬱になる。 「日向くん、大丈夫? ドクターの榊よ。今、体調は」 「ドクター、僕は日向じゃない。八代日向じゃないよ」 「あぁ、そうね。ごめんなさい。今日はそうなのね。あなたは、八代日向じゃない」 「僕は――」かといって、他の名前が浮かんでこない。「ともかく、八代日向じゃないんだ」
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