第1章

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 大勢の人々は歩きながら、誰かとしゃべっている。ケータイ電話のようなものは持たず、目の前の背中を向けた他人に話しかけるように、誰かとしゃべっている。もちろんだが、それはここにはいない遠くの人と話しているのだ。 「未来がない」 「……はい?」 「未来がないと思わないかね。窓ガラスから見えるのはアニメや漫画で描かれたSFじみた光景だ。しかし、実際はブレードランナーにもならない、ひどく猥雑で混沌とし、醜く新鮮味は薄く、それでいてこれまでの価値観が通用しない、ひどく息苦しい世界だ」 「そ、そうですかね」  街にある店には従業員はおらず、ほとんどがAR映像である。  今じゃアルバイトやパートの仕事はほとんど駆逐され、それよりも安上がりのARや安く変えるロボットに仕事が任されている。  これは一丸に悪いともいえない。  例えば介護や保育、その他に教師など、人手が足りず、それでいて一人辺りの労働時間が長かったり、給料が安かったりするものを、カバーすることができた。  とくにアンドロイド、もしくは特定のキャラクター商品に似せた(某猫型など)の介護ロボットは人気で、安上がりで、多くの人を救っている。  ま、その分、ラクになった家族の者達が働ける場所も減っているのだが。 「我々はね、ミナミくん。進化しないといけないんだよ」 「いや、いきなり何をいってるんですか」  話が唐突すぎる。  なんの前置きもなく、むしろこの発言こそが前置きであるのかといわんばかりに、発した。 「重要なことだからね。我々は急激に進化をとげた。科学技術はここ数百年で大いに進歩し、今じゃ宇宙にまで届き、新たな次元にも目指せる――なのに、我々の技術が進化しても、我々自身は進化していない。進化というのは、分かりやすく目に見えるものでも何でもいいさ。足が早くなった、腕力が上がった。そしてそれ以外にも、人類から貧困がなくなった。戦争をしなくなった。――でもいいのに。未だに人類は進化してない。結局のところ、我々は我々のままだ。お偉い学者さん達は国家の成立や精神のあり方などは大きく変わり、進化してるというかもしれない。だが、それではダメなのだよ。その程度じゃ。分かるかい、ミナミくん?」 「あ、は、あ、あい」  分かっていない。  思わず、条件反射で答えてしまった。 「分かってないことを分かったふりするのは、無能のやることだよミナミくん」
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