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「皮肉なことに、彼は穴の中ではまともなんだ。逆に、ここだと意識がおかしくなる。まるで、船乗りが陸酔いするかのようにね。いや、私も似たような経験はある。きみも知っておいた方がいい。ただでさえ、命の危険によりPTSDになりやすい場所だ。それ以外にも、あそこは人の心を歪ませる何かがある」
「何か?」
「何か……それを具体的に説明は、まだできない。私の中でもまだ不鮮明でね。でも、こういうことだよ。この前だって、あの戦いのせいで大勢の仲間が死んだ」
ちなみに、その中には高田もいるし、なつみもいる。
なつみ。
彼女は死んだ。高田は戦場から逃亡しようとした先で殺されたが、彼女は懸命に仲間を守ろうとして、その挙げ句に死んだ。
彼女には、日向は何度も助けてもらった。戦場だけじゃなく、精神面でも。
そんな彼女が死ねば、大きなヒビが入るのは当然である。
「私も、毎週カウンセリングに通ってるよ」
それに、目を見開くミナミ。
「そ、そうなんですか」
「驚いたね」
「い、いやぁ」
驚いた。
この男、龍宮隆三はとてもじゃないが、そういうタイプには見えなかった。むしろ、八代日向をカウンセリングしそうなほど、と見えた。
他の人間とは違い、鋼のような精神をしていると。
「私も人間だ。そう、ただの人間だ。あの穴の向こうに広がる世界と比べたら、ちっぽけな、ね。だから、立ち向かったあとはケアが必要だ。わが社は入る前に説明があるね。きみは知ってるだろ」
「は、はい」
「ダイバーはもうけ話だけじゃない。長く続ければ間違いなく破滅する。それは体の歪みだけじゃなく、金銭だってそうだ」
いってしまうと、ダイバーがかかるハザードの症状は現代科学でさえ太刀打ちできない病だ。そのため、何かあった場合は保険にもかかれないし、診てもらうには、そこら辺の病院では無理である。
そのため、一攫千金で夢の豪邸生活のイメージは幻想に近い。
いくら金をもらえても体はボロボロで、しかもアフターケアをする代金は高額、ときには手足を失う者だっているし、ハザードになれば差別の対象にもなる。今までいた友人や知人も裏切るだろう。家族だって裏切るケースをきく。例え、あっちでオーバーテクノロジーを拾ってきても、のちのち自殺する者だって相当な数がいる。
「彼を見ればそれが余計に分かるだろ。十七の少年が負うにはあまりにも大きな負担だ」
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