第1章

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 と、キザなことをいってリムジンは去っていく。  リムジンが通るには不釣り合いな細い道。  最寄り駅は歩いて四十分、周りは工場か空家ばかりで、ミナミが住むのはトタン壁の家だった。 「…………」  いつか、ここをぬけだす。  そして、弟や妹はいい学校にいかせる。  母親にラクをさせる。  なのに、今日はショッピングなんてして、なに甘えてるんだ。  と、ミナミは悲しくなる。 「………」  彼は。  八代日向は、いったい何のために戦ってるのだろう。  家族と会える可能性は少ない。  金だって、いくら稼いでもそれ以上のリスクを背負うことになる。  さらには現代社会での差別もあるし、一部では人気があるのは逆に、アンチはそれ以上にいるってことでもある。 (何で、戦ってんだろ?)  彼は、何がほしいのだろう?  008  自動運転のため、一人だけの車内となった龍宮。  彼はグラスを片手に、窓の光景を眺めていた。 (前回戦闘時の各種儀礼、終了しました) (ごくろう。お前がいて助かるよ、スバル)  窓ガラスを眺める彼の横に、十二歳ぐらいの少年が座っている。  彼は生きてる人間ではない、ARの映像でありAIだ。 (兄さん、つい本性が出ちゃってたよ) (おうや、そうだったかな?)  彼はグラスの飲み物を飲み干す。 (しかし、無能がいらないのは本当だろ) (だけど、まだ約束の日じゃないんだから。それは隠しておかないと)  秘めておかないと。 (そうだな。すまなかった) (でないと、また父さんみたいな人が出てくるよ) (……あぁ)  龍宮家には四人の息子がいたのだが、その末弟は早々に亡くなった。  彼には絵の才能があり、性格も優しく温和で、三男坊の隆三は自慢に思っていた。  だが、父や他の兄は違っていた。  彼等にとって絵の才能など児戯でしかなく、学業がダメで、人とのコミュニケーションや、肉体面のステータス、その他に支配者としての器が重要であり、彼等は弟をゴミとしてしか見ていなかった。  無能と見ていた。 (本当に無能なのは、あいつらだ)  隆三の目はぎらぎらと燃えている。 (兄さん、本性が出ているよ) (ここには誰もおるまい) (葬式、全員のに出るんでしょ。ほんと、律儀なんだから兄さんは) (あぁ、最初に行われるのは誰のだ) (確か、高田っていう) (それはいい、次) (兄さん、相変わらず手厳しいな)
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