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(恐怖にかられ、新人もいるのに仲間を見捨てた無能に送る言葉も金もない)
龍宮、いや、隆三は窓の光景を眺め、つぶやいた。
「約束の日。必ず私は、この世界を変革させる」
009
昔のことだ。
昔のことだが、昔ってのは大切で、過去ってのは、その人にとって大事な支柱であり、土台なのだ。
八代日向は昔から泣き虫で、弱虫で、いじめられっ子だった。
それを助けてくれたのが、さっちゃんだった。
『もう、ひなたのザコ! そんなんじゃ、いつまでたっても、つよくなれないよ!』
さっちゃん。
さつき、という名の少女。
彼女は近所に住んでいて、幼馴染み。いや、幼馴染みといっても、その他にも幼馴染みはいて、いじめっ子のジャイアンならぬ、菅野とか、山井とか、性格の悪い細野とかもいるわけで、一応、彼らは八代日向の幼馴染みであり。
あの日を境に、消えた。
消えてなくなった。
(s_鳴ってる、鳴ってるよ)
朝。
まっしろな天井が目に入り、ふわふわのダブルベッドから起き上がる。
八代日向は、冷蔵庫から水を取り出して、ごくごくと飲み干し、シャワーを浴びて、朝食。彼は料理に凝っていて、といっても朝は大したのを作らないが、ピーナツバターをかけたバナナを食パンにはさみ、焼いて食べる。
(s_今日もまた、トイレにこもりそう?)
(いや、大丈夫かな)
(s_どうしたの急に)
(なんだか。最近、クリアに感じてきた)
なつみは死んだ。
そのせいだろうか。
(s_そう、何かいやなことがあった?)
(いや、いつも通りだよ。いつも通り、誰かが死んだ。だから、変わらない)
変わりようがない。
日向は支度を整えて、家を出る。彼の住むマンションはセキュリティの行き届いたとこで、てか、社宅なのだが、玄関を出ると、すぐさま車を手配してもらい、現地へ向かう。
今日は仕事の日だ。
(s_日向。あんたって、なんのために戦ってるの?)
車は無人のAIタクシー。
ハザードが歩くとなにかと物騒なので、この手のタクシーを借りることは多い。というか、これも会社の経費で出たりする。
(……さっちゃん、きみって昔はどんな夢があった?)
(s_質問に対して質問で。いや、昔はって。アタシを誰かと勘違いしてない?)
(……そうか、そうだよね)
彼女はAI、さつきではない。
……さつきは、どんな夢を持っていただろうか。
アイドルになりたい?
専業主婦?
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