第1章

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 即座になつみにツッコミ入れられる日向。  どうやら、安心してもこれが平常運転のようだ。  ミナミは目をまばたかせ、困惑する。 (あ、あれ……十七の若さでエースダイバーって聞いたけど)  目の前にいるのは、おどおどして、頼りない内気な少年である。  同じ小隊になったと聞いたときは、うれしくもあり、怖くもあった。そんな偉大な人物といっしょになって、プレッシャーと同時に(怖い人だったらどうしよう)と不安がっていたのだ。  だが、現実は違った。  これは喜んでいいのか、頼りになる人といっしょでうれしい気持ちもあったのだが、頼りになる気配がゼロであり、複雑な心境になるミナミ。 「それじゃ、全員スタンバイして」  高田がいう。  どうやら、そろそろ出陣らしい。  軍隊なら分隊、小隊と細かく決められてるのだろうが、ここは民間だし、作戦もものによって大分条件が違うので、アバウトな部分も多い。  今回は、道が分岐すると隊を分裂させて進軍する通称アメーバ方式である。  例えば、道が二つに分かれていたら十人を五・五に分ける、という具合だ。一応、指揮系統を分かりやすくするため、四人一組の隊に分けてはいるが、他の隊とも連携が取りやすいように、部隊が分裂してもあまり遠く離れないように考慮はする。  また、穴の入り口にも念のためのダイバーがおり、待機。 「どうも、社長の竜宮龍三です。今回もみなさん、よろしくお願いします」  東口にあるトイレの前で、PMCの社長が挨拶をしていた。  社長、龍宮隆三(たつみやりゅうぞう)。  竜宮財閥の三男で、彼の会社もそこの傘下に入っている。後継者争いは熾烈を極めたが見事勝利し、正当後継者として国際社会からも注目される存在だ。  背は高く、一八〇を軽く越える。  歳は四十代で、しかし日向よりも若々しく活気溢れる様子。顔のほりは深く、西洋人のようだが両親共に日本人。高らかに声を張り上げ、社員を鼓舞するさまは社長というより将軍だ。 「みなさん、今回も奴等から宝をかっさらいましょう!」  社長の叫びに、社員一同大いに喝采をならした。  事実、彼は将軍かもしれない。社長でありながら、自らダイバーとして出陣することも多く、そのため彼の髪や右目は紫色に染まっている。 「我が社、ジェネシスが未来を創る」  我が社、ジェネシスが未来を創る。  社長の言葉に反芻して、唱える社員一同。 (やりにくいなぁ)
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