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第1章 始まり
「おじいさん、おばあさん今までありがとうございました。私は月に帰らしていただきます」
かぐや姫はそう言って月に帰って行きました。
これが口語訳をした竹取物語の終わりだ。
飛鳥中学二年生の蒼龍葵は授業で何となしに竹取物語の概要を聞いていた。
外では蝉の鳴き声がミーンミーンと騒々しく響き渡り、日本特有のジメジメした空気が教室の空気を満たしている。
黒くて長い髪が汗をかいた皮膚に張り付いて鬱陶しい感じを覚える。
「ふわぁ…」
誰しもが知っている物語を今更昔の言葉で習ったとしても分かりづらく、新しい発見もない。詰まらなくて、あくびがでるのも無理らしからぬことだ。
シャーペンでノートの片隅にぐちゃぐちゃと落書きをして、おもむろに消しゴムでその落書きを消す。
新しさも何もない古臭い話だ。
ただ…不思議なことに葵には何となく懐かしいような気がした。
チャイムが鳴って、教室から一斉に声があがる。ワイワイガヤガヤといった音が似つかわしいというべきだろうか?
葵はどうにもこの雰囲気が苦手だった。周りともうまく馴染めず、放課中もさして友達と話さない。みんながリラックスをしだす時間の中で一人だけ浮いてる感じがどうにもいたたまれないのだ。
いつからのことかは分からないが、気がつけば、こうだった。
周りと馴染めず、どうにも自分だけが自然と浮き上がって場を乱してしまう。周りに合わせる努力をしたこともあったが、空気感が無下に彼女のことを否定しているのが分かり、諦めてしまった。
葵には両親はいなかった。幼い頃を孤児院で育ち、3歳のときに今の養父の家庭に引き取られたが、よそよそしさが拭えない。
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