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グスリっと思わず涙がこぼれそうになる。
「ごめん。少し二人にしてくれないかな?マイクはあとでまた僕のところに帰ってきてくれ」
「ちょ…それは困るわ!まだ施設の案内の途中なのに…!」
急な展開に焦る美夏。今まで流星がこんなことを言い出したことなんてないのに完全な誤算だ。
「まぁまぁいいじゃないですか。普段流星様がこんなこと言うなんてないんですから。なぁ?エレナ」
「ええ。お兄様。私も賛成です。いいじゃないですか。美夏さん。なんならあとで私が施設の案内をしてもよろしいですし」
多数決が完全に傾く。いささか納得がいかない美夏はしぶしぶといった感じで了承する。
そして、美夏は二人に連れられていく形で
部屋を出て行った。
二人きりだ。
「やっと…二人きりだね」
誰かと一緒にいると落ち着けない。むしろ、邪魔臭いと感じる葵にとって久しぶりに味わう喜びだ。
「ああ。そうだね。僕も会いたかった」
少しずつ二人の距離が狭まっていく。
葵は何かを言いたかった。でもなにを言えばいいのかよくわからない。
流星と会ったらこんなことをしたい、あんなことをしたいという想像がない訳ではなかったが、いざその状態になってみると全ての考えが抜け落ちているのがわかる。
「ごめんなさい。私何を話していいか分からないの」
もしも自分の心を流星に見せることが出来たらどれほど楽だろうか。しかし、それは出来ないのだ。自分の持っている言葉でふさわしい言葉を知らない。又、どれほど語ったとしても心を完全に伝えることはできない。その感じがもどかしい。
「別に何も話さなくてもいいんじゃないかな。僕も伝えたいことは色々ある。でも忘れたことも多いし、伝えられないことも多い。でも、二人で今この時間を過ごすことで共有することが大事なんじゃないかな」
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