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流星は葵から片時も目を離さなかった。そして、また葵も流星から目を離さなかった。
月の民という呪われた宿命がなければ、不幸のどん底に落ちることもなかった。しかし、この時ばかりは葵は月の民であったことを心から喜んだ。
なぜなら流星とこうして会えたのだから。
「私、まだ出会って短いかもしれないけれど、流星くんあなたのことが好き」
「僕も葵ちゃんのことが好きだよ。君を見ていると心が穏やかで優しい気持ちになるのが分かるんだ」
そのとき、警告音が施設中を鳴り響いた。
耳が痛くなるような電子的な警告音。施設の全てに赤い明かりが輝き、緊急事態であることをほのめかしている。
『警告警告!光甲虫が出現。全職員至急自分の持ち場に戻れ。繰り返す。光甲虫が出現。全職員至急自分の持ち場に戻れ』
その放送を聞いて二人はハッとする。
「流星くん…これって…」
不安そうな?葵に黙って頷く。
「ああ。オッドロスの出撃だ」
「でも…私まだ操作方法も何も教わってない」
心配そうな葵に流星はにっこりと笑う。
「大丈夫。オッドロスは感情で動かせるロボットだから。葵ちゃんも動かせる」
怖かった。つい先日まで普通の中学生だったはずの自分に日本の未来が急にのしかかるのだ。本音を言えば今すぐ悲鳴をあげて逃げ出したい。どこか遠くへ行きたかった。
「葵ちゃんはまだ慣れてないから行かなくてもいいよ。僕一人で行く」
「だめ!!!流星くんはただでさえオッドロスに乗って壊れてる!これ以上流星くんが壊れるところを見たくない!」
葵の言葉に流星は手を差し出す。
「なら一緒に行こう。葵ちゃん。僕一人じゃきっといつか僕は壊れてしまうし、葵ちゃん一人じゃきっと葵ちゃんが壊れてしまう。だけど、二人でならどこまで壊れても…例え地獄に落ちても幸せのような気がするんだ」
葵はパッと明るく笑うと流星の手を握る。
二人でならばきっと乗り越えられるのだから。この手の温もりは絶対に自分を裏切らない。互いで互いを支え合える。だから、絶対に無敵で大丈夫に違いない。
葵と流星は名残惜しそうに握った手を離すと、そのまま作戦司令室へと向かって行った。
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