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3章 不死の山
それから様々な光甲虫と対峙した。虎型のものや、鳥型のもの、カバみたいなもの。
二人は様々な光甲虫と戦い、そして勝利をもぎ取った。
どんなときでも、夏のセミは鳴くことをやめず、またジメジメとした暑さは容赦なく地球に降り注ぐ。
「エレナさん。いつもありがと」
「いいえ、これが私の仕事ですから」
葵はベッドに腰掛け、エレナに靴ひもを結んでもらっていた。
光甲虫との戦い以降、葵ができることは急速に少なくなっていった。
靴ひもの結び方、料理のやり方、箸の握り方。実感したのがこのぐらいなだけで実際はもっとあるのだろう。
自分の部屋から出ると、いつも通り流星の元へ行く。
流星が好きなのもあるけれど、それだけではなかった。同じ立場の人間といると自分だけじゃないという安心感がするのが葵にはすごい心地よかったのだ。
流星の部屋へ着き、ブザーを鳴らしていつもどおり中に入る。
「流星様。友達が来たら挨拶を」
「ああ。そうだったねマイク。やあ葵ちゃん」
いつものやりとりを繰り返す二人。
初めは不思議な会話を聞いて笑っていた葵も少しずつ、そのやりとりを見ているのが辛くなっていく。
きっと、葵自身にもそういうことが起きているのだ。ただ、今はまだそこまで酷くないだけで少しずつ増えているのが分かる。それを自覚した瞬間が最高に惨めで辛いような気がする。
「流星くん…また来ちゃった」
「いいよ。僕も葵ちゃんに会えて嬉しいから」
流星はいつも通り椅子に座って足を組み、コーヒーをすすっている。
「マイクさん、私にもコーヒーちょうだい」
マイクはにっこりと笑い、コーヒーメーカーからコーヒーを差し出す。
「砂糖は二つでしたね?」
マイクの問いかけに葵はとっさに答えをだすことができなかった。
「え…わからない。ごめんなさい」
コーヒーを飲むときに砂糖を入れることは覚えている。しかし、それがいくつ砂糖を入れていたのかが思い出せない。スプーンでかき混ぜている自分は思いつくのに砂糖をいくついれているのかがまるで思い出せない。
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