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「人…いえ、動物は遺伝子によって縛られている。ライオンはライオン同士で子供を作るように、人も人同士で子供を作る。近い生き物であれば一応子供はできるけど、その子供が子供を作る能力があるかはあやしいの。そう人は血の運命からは逃れられない。月の民もその例外じゃないわ」
美夏は暗に、流星を助けたかったらあなたもオッドロスに乗って戦いなさいと言っているのだ。オッドロスに乗って少しでも流星が忘れるのを防ぐ手助けをしないと。
「私…あなたのこと嫌いです。一発殴らせてください」
「それで葵さんの気がすむならね」
葵は力の限り美夏を思い切り叩く。腕を思い切り振りかぶりただ感情のまま振り抜く。
自分の手がジンジンと痛む。その痛みが同時に葵の心を慰めてくれた。少なくとも、この手の痛みの分憎むべき美夏を痛めつけることができたのだと。
「交渉成立ね。月光対策省本部はあなたのことを歓迎するわ」
美夏が握手を求めるが、葵はその手をかわし、流星の元へと歩く。
「流星くん…よろしくね」
葵は泣きながら、流星の手を握る。
「葵ちゃん、なんで泣いてるの?」
「流星くんと会えたのが…嬉しいからよ…」
葵にとって事実だった。
「僕もだ。葵ちゃんといると、すごくドキドキする。こんなことは初めてだ」
きっと流星も月の民の子孫としてずっと馴染めない社会に生きてきたのだ。
重苦しい校長室の空気を気にしないように、セミはいつまでもせわしなく鳴いていた。
美夏たちの話が終わり、葵はとぼとぼと帰路についた。
鍵を開け、葵は家の中に入る。
二階建ての少し手狭に感じ始めた我が家の玄関を後にして、二階の自分の部屋へと向かう。
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