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2章 訪れた時
それから葵はいつもと変わらない日常を過ごしていた。美夏とした話が夢のような出来事にさえ感じられた。
しかし、夢ではないのだ。思い出すたびにぞわぞわと湧いてくる不安と、流星への熱い想いがそれを裏付けている。
葵の携帯が鳴る。
普段あまり鳴ることのない携帯の画面を見つめるとそこには美夏と書かれてあった。
葵は眉をしかめながら、その電話を手に取る。
「はい、もしもし」
「もしもし、葵さん?寝てたのかしら?」
どうも不機嫌な態度をとったのを美夏は寝起きと勘違いしたらしい。
わざわざそれを訂正する気もないし、億劫だったので特に追求もしない。
「いったい何の用ですか?」
話し合う気などない。手短に結論だけを話してほしかった。
「月光対策省に招待する支度ができたから、今すぐ学校に来てちょうだい」
美夏の言葉はいつもハキハキとしていて、それが覆すことのできない決定事項であることが分かる。
「なにか用意するものはありますか?」
ここで言い争っても得策ではない。葵はしょうがなしに、詳しい説明を求める。
「特にないわ。生活に必要なものは全てこちらで用意してあるから大丈夫。強いて言うなら…覚悟かしらね」「ではどこで待ち合わせをすればいいでしょうか?」
美夏の言葉を軽く受け流す。この人の言葉を真面目に聞いていたら時間がいくらあっても足りない。
「では2時間後に学校で待ち合わせね」
その一言を最後に電話を切る。
自分はいよいよオッドロスに乗り込むのかもしれない。不安だった。しかし、ある種ロボットに乗り込むという小さい子供の夢のような体験ができると考えるとワクワクする気持ちがなきにしもあらずだった。
シャワーを浴びて軽く汗を流し、身支度を整える葵。
「どうせ外行けばまた汗かくっていうのにシャワー浴びていくの?」
髪を乾かす葵を妹の未来が呆れ顔で見つめている。
暑さに苦手な未来は半袖半ズボンといった健康的な格好に、アイスキャンディーを口にくわえている。
「こういうのは気分の問題なのよ」
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