「Fantasy lover」

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着替えを終え申し訳ない程度に髪をムースでセットすると、またしばらくベッドの上でダラダラと過ごす。首だけが何やら強い重力に引き付けられているようだ。極端にうな垂れている。もしかしたらベッドにもう少し横になっていれば、深い眠りが出来るかも知れない。目覚ましをかけなければなおさら。  だが、俺は目覚ましをかけた。 つまり、目覚ましをセットした理由があるからだ。そう、理由がある。だが、そんな観念も空しくベッドに横になろうと試みる。起きた理由、起きる理由を遠ざけようとする。そんな自分に齟齬を覚える。 「あ、そうだ。朝食がまだだった」  朝食をとっていない行為それ自体より、自らが自らである事を再確認するために、あえて俺は大きな声で独り言をしてみせる。寝ぼけている上に、空腹であるから変に矛盾した思考が働くんだ、と精神の不具合の原因を、肉体のコンディションの悪さに依拠して。  ビニール袋から無造作に床に転げてあった、コンビニで買い置きしておいた賞味期限切れのコロッケ・パンを口に入れる。妙に甘いが気にしない。三日程度のタイム・オーバーなら許容範囲だ。 「それにしても……」     
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