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そう、意味があろうが無意味だろうが、それはこれからの行動には適合しない事だ。こうしてぎこちない朝は始まっていく。分かっているだろう、俺。
沖野(おきの)綴喜(つづき)。
彼女と会う前のいつもの小慣れた通過儀礼だという事を。今一度それを認識すると、俺はジャンパーを着込み、シベリア高気圧下の木枯らしたくましい外への出掛けを試みた。
電車に乗ると普段の生活習慣からか、車内の中吊り広告に目がいってしまう。週刊誌の見出しや都内のデパートのクリアランスの告知、新製品のドリンクの発売日などなど。俺も含めて箱型組織で日夜労働に励むサラリーマンにとっては、それらはテレビとともに意外と貴重な情報源となる。さらに満員電車、ドア付近の手すりに強引にもたれかけて、スポーツ新聞を読んでいれば、最低限の話のネタは確保できる。
大学卒業を機に、めでたく教養系及び学術系の本も一緒に修了して、読書傾向はもっぱらゴシップ記事や格闘技イベントの試合結果ばかりに偏ってきた。書見というよりもブツ切り情報ばかりのそれらに。電車という空間は、それと同じく限られた情報ばかりが流布する。もっとも、限られているとはいえ、それなりにバラエティに富んでいるので個人的には満足している。だが、休日のこの日まで通勤の感覚を思い出すのは問題だ。
駅に着き、街へ降りる。
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