「Fantasy lover」

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ああ、いかん、いかん。時折、大学時代の学びの残滓が、小さな懊悩を拡大解釈して、俺自身を意味不明に困惑させる。この癖はあまり良い性向ではない。どうやらコーラを飲んでも大した冷却効果はなかったらしい。よけい焦れてこんがらがっている。 とはいえ起きてから一時間半ぐらい経過し、歩いているうちに体が自分にしっくりと合ってきた。いつもの慣れた俺の所有物になっている。鈍い頭も幾分クリアになり、目的地までのルートのショート・カットも怠らなくなる。 国道から少し離れた、古着屋が軒並み連なる細い通りの一画に、目的地である『トッカータ』がる。イタリアン・カフェらしいのだが、別段フランチャイズの喫茶店との違いは見受けられない。イタリアンと称する割にカプチーノはイマイチな味の、元オシャレなカフェだ。ただしオシャレと呼ばれた頃は、俺が高校生だった時世。というよりも勝手に俺がオシャレだと思っていただけ。周りの地元民の学生がファースト・フード店で放課後を過ごすのに対し、多少背のびして純喫茶というほどでもない、オープン・カフェ的な喫茶店に寄る事に腰掛けていただけ。タウン誌に載っていたわけではないし、歳をとった今となっても、学生時代のノスタルジィにかまけて、さほど気に入っているわけではない。俺にとってはただの元オシャレな店に過ぎない。学校帰りにこの店に寄って、英語の辞書を引く自分に、恐らく酔っていただけ。     
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