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「Fantasy lover」
目覚ましのアラームを合図に、俺は浅い眠りから呼び起こされた。安っぽいシンセサイザーのような音色が、ヒステリックに牛耳(ぎゅうじ)に響く。この音は俺の携帯電話の着信音にそっくりだな、とにわかな苛立ちも添えて。
時刻は朝の九時半。
体を半身起こして目覚ましのスイッチを切り、再びベッドに横になって目を閉じる。大きく伸びをした後、「よし」と気を入れてみて、やや脚の高いベッドから降りた。軽い立ちくらみに頭を左右に振ってみる。それは質の低い睡眠をとっていた事の証左。睡眠時間はたっぷりとったはずなのだが、やはり熟睡とはいかなかったらしい。結局は長く無駄に睡眠をとった分、寝疲れしただけだった。最近はいつもこのような調子だが、今朝は普段より重たい気がした。女子なら幾日目かの生理痛に似た気の重さではないか、と男心に無意味にも夢想してみる。
のそのそと俺は徘徊癖のある老人のように、寝巻き代わりのジャージから外行きの服に着替え始めた。外行きといってもヴィンテージなど関係なく無駄に色褪せたヨレヨレのジーパンと、シャツにパーカーを羽織る程度。
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