第2話 仕事

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そして徐に乾いた砂を軽く踏み込んで跳躍すると、向かって来ていた多脚戦車の砲塔の上に音も無く着地した。 夜の冷気の余韻が残る砂色の装甲に手を当て、落ちない様にバランスを取りながら整備用ハッチの上にカルマの躯を静かに載せる。 そして間断なく点滅を続けていた視覚センサーと目を合わせると、愛想良く会釈をしながら礼を言った。 「わざわざ迎えに来てくれるとは思わなかったよ、ありがとうな」 害獣との戦闘で出来た凹凸を労わる様に撫でながら、砲身の付け根をマッサージする様に軽く叩いてやる。 するとその多脚戦車はその場で機嫌良さそうにクルクルと旋回して喜びの感情を表現すると、そのまま要塞の中へと雪兎を引き入れていった。 “旧都” かつて東京と呼ばれ、この国の中枢を担っていた巨大要塞都市。 しかし害獣の侵略と血迷った隣国の悪意ある誤射に幾度と無く晒され、首都機能の多くが地方へと離散した結果、国防軍が引き払った跡に集結してきたマフィア共に自治権を掌握され、公権力の手が一切及ばない巨大な暗黒街と化していた。 雑多な市中を埋め尽くす喧騒の中に堂々と交じるヤク売買の掛け声と明らかに正気で無い娼婦達の誘う声。 そして彼方此方の電柱に吊るされ、晒し者にされているマフィアやブン屋の惨殺死体がこの都市がマトモでないことを裏付ける。     
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