第2話 仕事

3/13
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/370ページ
「相ッ変わらずひでぇトコだなぁ……」 戦車に揺られ、キャタピラがアスファルトを踏みしめる音を聞きながら雪兎は正直な感想を小さく呟く。 野蛮としか形容出来ないような光景をなるだけ視界に収めない様に顔を伏せて目を瞑るが、腐った死体の放つ饐えた臭いが鼻を刺激するのにはどうしても耐え切れず、酸っぱい物が胸元から込み上げてくるのを直に感じた。 「朝飯前にこれって何の拷問だよ畜生……」 顔面を蒼白にして冷汗を流し、機関砲にぐったりと身体を寄り掛からせて耐える雪兎。 害獣の死臭なら十分嗅ぎ慣れているが、人の死体に関してはどうしても慣れる事は出来なかった。 だがそれと共に、人の死体に対し嫌悪を抱ける事に少々の安堵感も感じていた。 人の死に対し何も興味を抱かなくなる時、それが人間としての死であると在りし日の義父から強く教え込まれていた故である。 「うぐぐぐ……」 絶えず頬を流れる冷や汗を拭ったり深呼吸したりと、何とかして吐きそうな気分を紛らわせる内に、本来ならとっくに辿り着いていたはずの目的地へようやく到着する。 バラックや掘っ立て小屋が犇めく街並みの中、浮いた様に存在する純和風の店構えをした小さな問屋。     
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!