第1話 覚醒

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その様を天使は気味の悪い笑い声を発しながら意地悪く眺めていた。 まるで力無き愛玩動物を思うがままに踏み躙り悦に浸る狂人の様に。 しかし次第に雪兎の反応を見て遊ぶのにも飽きたのか、肩口に乗せていた矛の切先を雪兎へと向けると、人間では到底視認出来ない速度で降下を開始する。 人類の産み出した兵器を幾ら斬り捨てても刃毀れ一つ無い大質量の塊が、涙で揺れる雪兎の視界をコマ送りで埋めた。 「ウゥ……!?」 ――刹那、夢は途中でぶつ切りにされ、雪兎の意識は現実へと引き戻された。 恐怖に囚われ浅い呼吸を何度も繰り返し、咄嗟に防弾コート内に忍ばせた対獣カービンへ手を伸ばそうとするが、先ほど迄の光景が夢であった事を悟ると深くため息を付きながら座席へ身体を委ねる。 「情けないな……畜生……」 いい歳して悪夢に怯える自らの情けなさに内心苦笑しながら、懐からくすんだ色のボトルを取り出すと、中を満たしていた生ぬるい水を口に含みゆっくりと飲み干していく。 体内に注がれる水分が興奮して上がった体温を下げ、周期的に車内を揺らす振動と仄暗い暖色系の光を放つLEDが、悪夢の余韻に苛む心身を徐々に平常へと誘い雪兎の意識を再び眠りへと誘う。     
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