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しかし幾ら身体が丈夫であり、尚且つナノマシンによるブーストがあろうと、人間である以上いつかは息が上がり追い付かれて挽肉にされるのは自明の理であった。
満腹のまま延々と走らされ続け、口端からだらしなく唾液を零しながら雪兎は文句を言うも、カルマは何一つ返事を返さない。
そしてついに限界が訪れる。
「うぅ……!」
体内のナノマシンが処理しきれずに飽和し拡散した大量の乳酸が、今まで軽快に動き回っていた雪兎の心身を急速に疲弊させた。
その弾みで雪兎は僅かな段差で転倒し、装着していた暗視グラスを派手にふっ飛ばしながら無様に埃まみれの地を舐める。
「は……は……」
ナノマシンの過度の使用によって普段とは比べ物にならないものとなった過労が、床に這い蹲る雪兎の身体を容赦なく縛り付ける。
まさに絶体絶命の危機。 しかしその状況の割りには雪兎の表情は至極明るかった。
眼前で太い節足が振り上げられ今にも踏み潰されようとしているにも関わらず、瞳の中には絶望の欠片も無い。
「まだ気付かないのか……馬鹿め……!」
余裕綽々で近づいてくるガードメカを嘲笑いつつ、雪兎はこれみよがしに中指を立て、ダブルで突きつける。
機械に効くかどうかなど関係無く、ただ敵を煽りたいだけという単純な思考が生んだ奇行。 それは雪兎の思惑など関係なくガードメカの注目を引き付け、突撃という攻撃的な行動を誘った。
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