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しかし耳鳴りがする程静かだった車内に小さな声が響いた瞬間、その眠気は僅かに和らぎ、応答出来る程度の余裕を雪兎に与えた。
『大丈夫ですかユーザー、顔色が悪いですよ? こんなに汗までかいて……』
鼓膜を叩く幼い声に応える様に雪兎は視線を下げると、そこには金色のツインテールを揺らしながら心配そうに雪兎を見つめる少女の姿があった。
全身をゴシックロリータ調の服に身を包み、頭には複雑な数式が縫い込まれたカチューシャを付け、蒼く大きな瞳を持った愛らしい少女。
彼女は雪兎の頬を伝う汗を持っていたハンカチで甲斐甲斐しく拭うと、恐怖の余韻で僅かに震える雪兎の腕を抱き、そっと胸の中へと寄り掛かった。
『昂ぶって眠れないのであれば鎮静剤を投与しますが……』
「そんな事しなくても大丈夫だよカルマ、ちょっと変な夢を見ていただけだからさ」
上目遣いでじっと顔を見つめながら問い続ける少女に対し、雪兎は軽く笑みを見せながら名を呼んで応えると、その小さな躯を膝に乗せ頭を撫でてやりながら語る。
「今まで何度も酷い目に遭って来たんだ、今更この程度で参る程僕は繊細じゃない」
『でも……』
不服そうに表情を曇らせる“業”の意を持つ名を冠する少女。
そんな彼女の躯の前に手を回し、軽く抱き締めてやりながら雪兎は再び瞳を閉じる。
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