第1話 覚醒

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抱きまくらにでも抱きつくかのように幼女に腕を回す姿は傍から見ればロリコンの変態にしか見えないが、彼女が何者であるかを知っている雪兎にとってはこれが最も安らかに眠りに付ける方法だった。 「話なら旧都に着いた時いくらでも聞いてやるから今は黙っててくれよ。  “お前と違って”僕には睡眠が必要なんだから……」 『む~~』 頬を膨らませ、ムスッとした顔で雪兎を睨むカルマ。 そんな刺々しい視線を向けられているとも知らず、雪兎は少女の躯の温もりとほんのりと漂う乳臭い香りに心癒されながら今度こそ安眠へと導かれていく…… …………筈だった。 今まで風を切る音以外に何も聞こえていなかった車内に突如小さな雑音が響き始め、僅かずつだがその音量は確実に大きくなっていく。 「……?」 異変に気付き、意識が完全に醒めた雪兎は咄嗟に窓の方へ視線を巡らせ近辺に敵が居ないかを確認するが、その視界には錆び付いた荒野が無限に広がっているばかりで何も窺い知る事は出来ない。 だが雪兎が腕に抱いたカルマが小さく怯えたように呟いた瞬間、その疑念は確信へと変わった。 『来る、奴等が来る! もうすぐ此処へ!』 蒼く大きな瞳の中を激しく走査線が走り始め、カルマの体表を銀色の液体金属が瞬く間に覆い、硬質化を開始する。 明らかに常人では成し得ない現象であるが、それに雪兎は一切動じることは無かった。     
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