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第1話 覚醒
雪兎は夢を見ていた。
幸せだった幼年期が終わり、全てを奪われた絶望の日の事を。
感覚がはっきりとしない微睡みの中、爆ぜる焔の光の下で血飛沫よりも赤い火の粉を浴びながら一人立ち尽くし、半壊したマンションがゆっくりと崩れ逝く様を呆然と見つめている。
その上空には、綺羅びやかな盾と矛を携えた人外の者が居た。
白色の翼と陽光の如く眩き光を背負い、端麗な顔付きをした、人々が神話に伝える天使の様な姿をした化け物。
美麗な外観とは裏腹に吐き気を催すような殺気を常に醸し出すそれは、マンションの中から無理やり掴み出した人々を口の中へと放り込むと、雪兎へと見せ付けるように汚らしく噛み締めてみせた。
痩けた頬の形状が変わる都度に口の端から赤い液体が地上へと降り注ぎ、頭蓋の半分が喰い千切られ、脳味噌が飛び出した首が雪兎の目の前に落ちてくる。
その転げ落ちてきた首は未だに生きている者が居る事を恨めしく見るかのように、光無き眼球の視線を雪兎の顔に向けた。
「う……うげろぉおおお……!」
余りの凄惨な光景に悲鳴よりも先に胸の奥から不快感と共に胃液が食道を逆流し、血肉に塗れひび割れたアスファルトを汚す。
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