第4話 超克

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第4話 超克

地獄とはこの場所の事をいったのかと、雪兎は闇の中で一人考えていた。 光、音、匂い、重力、時の感覚さえも無い魂の監獄の中で、永遠にも近しい孤独を意識しなければならないという苦行。 天国なんて嘘ッぱちだったぞ大工の息子と強がって舌打ちしながらも、雪兎の心は既に闇に蝕まれ狂い始めていた。 息を吸っても、大声で叫んでも、駄目元で身体を痛め付けても何も感じる事が出来ずに途方に暮れる。 しかし、それでも自分の意志が確かに存在するという事実が孤独と虚無に抉られつつある心を更に深く苛んだ。 「灯りを、誰か灯りを……!」 誰も存在し得ない闇に向かって狂った様に叫びながら、ありもしない光を求めて雪兎は深淵を当ても無く走り回る。 傍から見れば醜さ極まった愚行であるが、この境遇が永遠に続くと考えると平静など保てる訳も無く、無限の暗黒の中を飽きる事無く走り続けた。 何をやっても疲労を感じず、自らの呼吸どころか心音さえも感じられない虚無の世界で一人。 浅ましく泣き叫び、もがき狂い、無様に足掻き続ける。 だが、突如背後から轟いた咆哮が雪兎の意識を揺るがした時、狂気に蝕まれた心に理性の光が差した。 「……こんな所にまで奴等が?」     
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