第2話 仕事

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第2話 仕事

時は早朝、夜空を飾っていた月と星々の煌きが地平の向こうへと姿を晦ますと それと入れ替わるように顔を出した太陽が地上を照らし、停滞していた全ての事象が動き始める。 大地に突き刺さり朽ち果てた対空砲が朝露に帯びて雫を零し、腸を抉られた戦闘機の残骸から這い出した小さな鳥達が乾いた空を舞う。 そして骸の遙か向こうに佇む錆びた要塞が曙光を浴びて赤く染まり、要塞の中から轟いた一発の空砲が人々の一日の始まりを告げた。 慌ただしく要塞の周囲を駆け回っていた無人偵察車がねぐらへと帰り、入れ替わりに現れた無人多脚戦車の群れが突如地平に現れた影に向かって大急ぎで駆け寄っていく。 紅い陽光を背に、躯をゆっくりと揺らして向かってくるのは銀色の装甲を眩く輝かせる人造の竜。 それを砂塵と共に吹き抜けた一陣の風がヴェールのように覆い隠し、僅かな間を置いて晴れると、一つの人影が竜の代わりに姿を現した。 眠りに就いたカルマを腕に抱きかかえ、歩き続ける雪兎。 彼は鮮血の様に紅い瞳を細め、先程まで強張っていた表情を緩めると緑色の血痕がこびり付いたカルマの柔らかな頬を黙って拭ってやる。     
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