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たいして変わらない体格。
なのに抱き締められると不思議と安心できた君の腕。
今は、ただ辛くて苦しいだけだけれども…
「離し」
「離さない」
言葉を遮る声は聞いたことがないほどにキツく、拘束する力も強くなった。
「さっきの何。俺には別れ話に聞こえたんだけど。」
「……………」
「やっぱり…あのね、それあなたの悪いところだから。勘違いして先走る癖。」
「え…」
ため息と共に紡がれる言葉に身を捩った。
抱き締める腕の力が弱まり、温かい体が離れる。
振り返れば困ったように笑う君と視線が絡んだ。
「てか、誤解させるような態度だった俺も悪いな。ごめん。」
「勘違い…?」
「そ、勘違い。あなたに別れ話しようと思って呼んだんじゃないよ。」
クスクスと笑いながら頭をグシャッと撫でられる。
大きな手が強めにワシャワシャと髪を掻き回すのに「痛いよ」と小さく抗議した。
どこか和らいだ空気に心がホッと弛む。
別れ話ではないと分かって体からも力が抜けた。
ヘニャヘニャとその場にしゃがめば、同じように向かい側に君がしゃがむ。
「だって、見送りいらないって言うし。」
「見送られたら離れがたいだろ?」
「こんな直前に言うし。」
「あんまり早くから言うと、あなたが寂しがるかと思って。」
「連絡もあまりしてこないし。」
「お互い忙しかったからな。」
「…デートもセックスも僕から誘うばかりだし。」
「それに関しては俺が完全に悪いな。照れ臭かっただけなんだけどね。」
「………なんだよ、それ」
思わず吹き出せば「やっと笑った。」と頬を撫でられた。
温かい指が顎を持ち上げ、近づく君の顔を見つめた。
チュッ…と触れるだけのキス。
冷えてカサカサの君の唇が、今はとても心地好い。
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