君の吐息

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「三ヶ月、待ってて欲しい。」 ゆっくりと離れた唇から紡がれる言葉に耳を傾ける。 「毎日は無理でも連絡する。あなたが寂しくないように。」 「……………」 「だから…」 そこで一度言葉を切りギュッと抱き締められた。 「だから、帰ってきたら一緒に暮らそう?」 「……!」 「会えない時間に考えて欲しい。これから先のことを。あなたの時間を俺に預けても良いか、ゆっくり考えて。」 小さいけれど確かに告げられた言葉に目を見張った。 「な、に…それ。プロポーズみたいな」 「う……とにかく、考えて!」 否定しないんだ、プロポーズのことは。 その事実が嬉しくて背中に手を回す。 抱き締められているのと同じくらい腕に力を込める。 普段喋らない君がこんなにも想いを口にするのは珍しくて。 その緊張した声が愛しくて。 「分かった。三ヶ月、ちゃんと考える。」 答えなんて決まっているけど…心の中で付け足す。 スリッと頭を肩に擦り寄せれば背中を軽く叩かれた。 「ん、先走って老後の心配まですんなよ。」 笑いを含んだ、けれども少しホッとした様子の君に僕も笑った。 今日はこれを伝えたくて呼んだのか。 どこか冷たく感じたあの態度は、ただ緊張していただけなのか。 「…僕の家、来る?」 来て欲しい。 朝まで君の熱を感じたい。 想いを込めて誘えば頷く君。 「俺も、あなたを抱きたい。」 小さくもはっきりと返ってきたセリフに胸が熱くなる。 嬉しい、君が僕を求めてくれることが。 「ね、もう一度言って?」 君の顔に手を添え優しく囁く。 もう一度聴きたい、君のその口から僕を欲しがるセリフを。 「………………」 「ダメ?聞きたいな?」 フイッと視線を逸らす君に繰り返せば、耳まで赤くして唸った。 その様子がおかしくてクスクス笑えば「意地わりぃな」と拗ねてしまったけれど。 やがて観念したように大きく息を吐き出すと、ゆっくりと視線を合わせる。 「あなたを抱きたい…あなたの『これから』が欲しい。」 「ん、合格」 熱の籠った、けれども真っ直ぐな瞳。 そして飾り気のない正直な言葉に微笑み、今度は僕から口づけたー。
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