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楓と宮永
校舎の裏庭に面した位置に建てられた弓道場。
部活も無く誰もいないその広い的前に、楓先輩が凛とした空気を纏って立っている。
タンッ...!
放った矢が遠く離れた的に当たり、気持ちの良い音を鳴らす。
表情ひとつ変えずに退場していく姿を、壁に寄りかかりながら見つめた。
...袴姿は反則だよな。
ボロボロになった制服を脱ぎ袴に着替えた楓先輩の色っぽさに、腹の奥がムズムズとする。
部活動には参加しないくせに人がいなくなるとフラッと弓を引きに来る。
『弓を引いている時は気持ちが落ち着くんだよ。』
どうして弓道を続けているのか聞いたときに教えてくれた言葉。
その表情はいつも他校の不良達と喧嘩をしている時のような粗野な感じはなく、どこか大人っぽさを感じた。
こうやって放課後に一人で弓を引く先輩を待つのが日課になり、最初は敷居が高く感じていたここが今ではすっかりお気に入りの場所になっている。
「ミヤ、どうした?」
声を掛けられハッとする。
いつのまに側に来ていたのか、座り込んだ俺の前にしゃがみこみ顔を覗かれた。
少し首を傾げたその仕草が可愛い。
「...別に。終わったんですか?」
「ん、片付けた。」
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