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私と幹太はあまり長居する事もなく、私の両親の家を後にした。
帰りの電車の中でも幹太の口数は少なかった。私は分かっていた事だけれども、それでも幹太のやるせない顔を見るのは辛い。
私にできる事は、幹太の心を癒す事だけ…
今は言葉より幹太の手を優しく握るだけにした。幹太の私の母への思いが、いつか必ず届く事を祈りながら。
家に帰り着くと、幹太は意を決したように私を抱きしめた。
「寧々、俺、しばらく寧々の両親の家へ通うよ」
「え? 通うって?」
「週末は時間を作って遊びに行く」
私は幹太の胸の中から顔を上げ、幹太の目を見つめた。
「無理だよ…
仕事だって忙しいのに、あんな遠い所まで」
幹太は笑いながら、また私を抱きしめる。
「大丈夫だよ…
門前払いになってもいいんだ。
それぐらいしなきゃ、寧々のお母さんの傷ついた心を開く事なんかできない。
寧々は来なくていいから、俺が一人で行く」
私は家に着いたせいか、気が緩んで涙が滝のように溢れ出す。
こういう事を決意した幹太が可哀想で、そして、心の扉の鍵をいまだに見つけられないお母さんも可哀想で、私は胸の痛みで息をする事さえ苦しかった。
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