彼の未来……2

34/35
1936人が本棚に入れています
本棚に追加
/261ページ
私と幹太はあまり長居する事もなく、私の両親の家を後にした。 帰りの電車の中でも幹太の口数は少なかった。私は分かっていた事だけれども、それでも幹太のやるせない顔を見るのは辛い。 私にできる事は、幹太の心を癒す事だけ… 今は言葉より幹太の手を優しく握るだけにした。幹太の私の母への思いが、いつか必ず届く事を祈りながら。 家に帰り着くと、幹太は意を決したように私を抱きしめた。 「寧々、俺、しばらく寧々の両親の家へ通うよ」 「え? 通うって?」 「週末は時間を作って遊びに行く」 私は幹太の胸の中から顔を上げ、幹太の目を見つめた。 「無理だよ… 仕事だって忙しいのに、あんな遠い所まで」 幹太は笑いながら、また私を抱きしめる。 「大丈夫だよ… 門前払いになってもいいんだ。 それぐらいしなきゃ、寧々のお母さんの傷ついた心を開く事なんかできない。 寧々は来なくていいから、俺が一人で行く」 私は家に着いたせいか、気が緩んで涙が滝のように溢れ出す。 こういう事を決意した幹太が可哀想で、そして、心の扉の鍵をいまだに見つけられないお母さんも可哀想で、私は胸の痛みで息をする事さえ苦しかった。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!