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何人もの人がこの部屋に駆け込んできたのを感じた。それから、金属同士が擦れる音や何かを指示する声で静寂は奪われていった。
「向こうで座りながら少し話そうか」
レイジの手は温かみを取り戻していた。床に座り込むとひんやりとしていた。また、金属が焦げる匂いがした。
「ミヤビちゃんはどうにかして直すよ」
レイジは静かにそう言った。
「お願いします」
僕はあぐらから体育座りに変えて、自分自身の手を強く組んだ。
「レイジさんはアンドロイドをどう思いますか?」
レイジはうーんと唸った後に、手を叩いた。
「正直、なんとも言えない。レイの言っていることも、人間が感じていることも、どちらもよくわかる。でもさ、ボクは迷っていいと思うんだ。無理に黒だとか、白だとか、決めなくてもいいと思う。いずれ、そういうことが分かる日がやってきて、あーそうだったんだと想えればそれでいい」
いつもレイジは僕の想像を越えていく。現在、アンドロイドは窮地に追いやられていることに間違いない。でも、そのことさえも楽しんでいるようなレイジにどこか感化された。本当に強い人だ。
レイジはふうーと息を吐く。僕はレイジの方に顔を向けた。もちろん、レイジの表情が見えることはない。
「さっきね。政府から連絡があったんだ。アンドロイドは生産中止で、今稼働しているものは全て廃棄だそうだ」
思わず「えっ」という声が漏れた。僕は天を仰ぐようにそのまま床に倒れる。
「でも、勘違いしないで欲しい。ミヤビちゃんは必ず直すし、この事態をそのまま受け止めようとは思っていない」
レイジは強く言い切った。
「健太くんはどうする? ボクらと一緒に戦うかい」
僕にもう迷いなどなかった。たくさんの失敗をしてきて、大切なものを失ってきたからこそ、僕はいま頷くべきだと判断し、首を縦に振った。
失うことはけして、マイナスだけを残さない。
「強くなったな。あともう少しだ」
僕はレイジの言葉の意味を考えながら、歩みだした。足音が再び室内に響いた。その一歩がとても大きなものに感じて、体を引き締めた。
「ミヤビが直ったら、やっぱり山に登ります」
決意はどこまでも堅いものとなった。
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