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「もう一度、先生と一緒にアンドロイドを作りたかった。それだけなんです。レイさんはその起爆剤になればいいと思っていました」
レイジの言葉に、僕はまた心を揺さぶられていた。
僕はいつしか幸せや自分の希望を願わなくなった。自分だけがという想いがどうしても僕の心に蓋をした。
「言っただろ、レイは失敗作だと。俺はやつに手をかけすぎた。それがお前との大きな違いだ。もう、お前ならわかるだろ」
おっちゃんが椅子に座り込んだのか、イスの軋む音が聞こえた。
「ボクにはわかりません。レイさんはボク以上のアンドロイ……」
おっちゃんはレイジが話し終える前に口を挟む。
「それが違いだ。お前はちゃんと心を育んできた。けれども、レイは俺が偽物の心を組み込んだせいで歪んだ。お前はちゃんと葛藤しているだろう? レイは葛藤などしない。感情のある方向だけを見つめる」
おっちゃんは息継ぎをする。
「俺たちゃ何もする必要はなかったんだ」
また、爆発音が研究室内に響き渡る。おっちゃんは気にせずに言葉を続ける。
「アンドロイドだって人間だって大した違いはないんだ。人間も最初から心がねーように、アンドロイドもねーんだよ。それが当たり前なんだ。何もない状態から徐々に育んでいく。そんな大切なことを、今更になって気づくなんてな」
そう言って、おっちゃんは笑った。
「でも……」
レイジはいつものようなはきはきとした喋り方ではなく、歯切れの悪いものだった。
「レイジ! 迷っているならぶつかってこい」
おっちゃんの声の大きさに心臓が飛びあがる。
レイジは躊躇しているのか、しばらく沈黙した。未だに研究所内の混乱は収まっていない。そんな喧騒が広がる中で、レイジの息を吸う音が聞こえた。
「あなたのようになりたかったんです、先生」
僕の蓋をしていた想いがどんどん強くなっていた。僕自身の感覚でしっかりと受け止めたい。そういう思いが僕の心を揺さぶる。
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