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「なら、まずするべきことがあるだろう」
おっちゃんのその言葉にレイジはいつものような威勢の良い返事を返す。そして、僕らの元からレイジが遠ざかっていくのを感じた。
立派な背中だとおっちゃんはしみじみ言った。
僕はどこまで図々しくなってしまったのだろうかと、右手で右目あたりをおさえる。僕の見える景色はどこまでも真っ暗だ。その景色にレイジの立派な背中が映ることを願ってしまっている。
「健太、あまり押さえ込む必要もない。豊かな感情も、願望も、いまのレイジのようにぶつければいい。何も伝えなかったら始まらないぞ」
おっちゃんのダミ声は優しかった。そんなおっちゃんがいるであろう方向を見つめる。今、おっちゃんと目が合っているような気がした。
「それがわがままであっても?」
「構わん。青臭くぶつかれ! そうやって、人もアンドロイドも成長する。幸せを願わないものに幸せは訪れんよ」
そう言って、おっちゃんは鼻歌をならした。
ずっと閉じていた扉は開かれ、僕は胸をなで下ろす。自分だけが生きていることに罪悪感を抱え、せめてもの代償として自分の大切なものを奪った。それが視力だった。
おそらく、無意識だった。それでも、繰り返されるカウンセリングでその事実が露見し、僕はいつしか見て見ぬふりをするようになった。ただ、僕の思惑とは正反対にその想いはどんどん強くなっていった。
そう、僕は誰よりもこの世界を眺めたいと思っているのだ。
喧騒がおさまり、一瞬の静寂が訪れた瞬間、一際大きな爆発音が響き渡り、歓声があがった。
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