三日月猫と悲しげホライゾンI

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 ……眠れないなぁ。  五月蠅いわけではないのだが、他人の存在が近くにあるというのは青年にとっては大いに不慣れなことだった。  また適宜取られるパーキングエリアでの休憩時間が、安眠する精神状態を青年から奪い去っていった。  ただ、寝ることは最早さして必要ではない。  人生最後になるだろう睡眠。  そんなもの、別に殊更、青年にとって意味を持たなかった。  だからってわけじゃなかったが、ふと。  隣に座っている見ず知らずの他人に意識を向けた。  夜行バスの隣り合わせの組み合わせは基本、男の隣は男、同性優先である。  ただこの日、青年の隣に座っているのは、大学一年の自分よりも2~3才は若いように見える、女の子だった。  全く痛みの見受けられない栗色の髪の毛は座っている椅子に届くほど長く、明らかにサイズオーバーの大きな毛糸っぽいパーカーを着て、その額には巨大な目のイラストが入ったアイマスク──何故か額。瞼には降ろしておらず、それは意味があるのか?──をつけてぐっすりと眠っているようだ。  印象的な少女だが、何だろう目に留めていたら急に起きてくる気がして、青年はすぐに視線と意識をそらした。  もう、人と関わるのは駄目なのだ。  それは両親を亡くした時に、青年の中で芽生えた強い感情だった。  たとえそれがどんな他人でも。近い者であるならば猶更に……。  少なくとも、すぐ真横に座るこの少女から、深夜三時過ぎに話しかけられるその時まで青年はそう思い続けていた。
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