坂崎のこと

7/7
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「坂崎君、大学辞めたらしいよ」  多佳子ちゃんからその報告を聞いたのは、花見の夜からちょうどひと月が過ぎた頃だった。 「教授にメールがあったんだって」 「メール? なんて?」 「『桜を探しに北に行きます』って。何かの暗号かって、教授も首をひねってたよ」  またしても桜だ。 「もしかして坂崎君、桜の開花を追って、北へ旅してるのかな」  多佳子ちゃんの予想は当たっていた。  ゴールデンウィークで北海道に帰省していた学生が、旭川の桜の名所の公園で坂崎を見かけたという情報が入った。  桜の木の下で独り、うっとりと満開の花を見上げていたという。声をかけても上の空で、まるで夢遊病患者の様だったと……。  ああやはり、坂崎は桜に囚われてしまったのだ。  ズルをしてしまったばっかりに。  北の果てまで桜を追って、そのあと彼はどこへ行くのだろうか。  海を越えて、異国の桜を追うのだろうか。  また来年、桜が咲けば坂崎に会えるのだろうか。  あれから十数年、桜の季節がくるたびに俺たちは坂崎の姿を探している。  まだきっと囚われたままであろう彼の姿を ─。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!