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みえないもの
狭い教室にいっぱいの同級生と一緒に詰め込まれて、毎日騒がしく過ごす少女。そんな彼女の瞳に写るのは、ぼんやりと歪むクラスメイトの姿。
進級した直後、急に視力が悪くなった。クラス替えで仲の良い友達と離れてしまったし、新しいクラスメイトの顔と名前が一致しないせいで、仲のいい友達も作れずにクラスで浮くようになっていた。
そんな彼女にとって、席替えは辛かった。公平さが重視されたくじ引きでは自分の好きな席にはなれないからだ。仲のいい友達もいないし、「目が悪いから前にしてください。」なんて言う程視力も悪いわけではなかったから黙ってやり過ごしてしまった。
くじの結果は次の日には出ていて、すぐに後悔した。一番窓際の隣の列、一番後ろ。隣はよく知らない男子で、前は明らかにタイプの違う女の子。おまけに板書は見えない。少女は少し学校に行きたくなくなった。
「よろしくっ。」
窓側からかけられた明るい声に顔をあげると、隣の席の男子が少女の方を見ていた。
ほんの数十センチしか離れていないのに表情が歪んで見えなかった。
少女は小さいよろしくだけ返して、これからどうするかを考えた。
隣の席からは毎日声がかけられた。
「おはよう!」「何読んでるの?」「昨日のテレビ見た?」
少女は、大した返事もしないのに話しかけてくれる少年に対して申し訳ない気持ちになっていた。
彼の表情は見えなかった。
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