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「できるだけきれいな服を着た方がいい」
リュカが『ナイフラヴァー』を始めてから、半年が経つ。
「その方が、アンドロイドにはウケる」
半年間、背中をナイフで切られ続けて得たノウハウは、確かにリュカを助けていた。
「……持ってない」
そう言って見つめてくる空虚な瞳に、リュカは少し前までの自分を重ね合わせる。
『ロストカラー街』――それは、紛争によって何かを奪われた『ヒト』と『アンドロイド』、そして、そこからまた何かを奪おうとする輩で溢れかえっている街。
リュカは、自分と同い年くらいの少年に真っ白なシャツを手渡す。
「お前にやる。しばらくはこれを使えばいい」
「ありがとう」
久しぶりに聞いた感謝の言葉に、リュカは気持ちが弾んだ。
「名前は?」
「マオ」
「俺はリュカだ。施設の説明をするからついて来い」
「はい」
西の外れにある廃ビルを利用して作られた施設は、その外観からは想像できないほどきれいに整備されていた。
「ここが準備室。水道の水でタオルを濡らして体を拭け。お湯が出るシャワーもあるが、使うにはオーナーの許可がいる」
リュカが蛇口を捻ると、透明な水が一筋流れ、直下に置いてあるスチール製のバケツを叩いた。
「きれい」
「ああ。しかも直接飲める。腹が減ったらこれで凌げ」
浄化処理された水だけでなく、汚れていないタオルがきっちり積んである棚や、塵ひとつ無いタイルの床も、マオの目には美しく映った。
準備室から5部屋隣が、マオの仕事部屋だった。リュカから「402」と書かれたカードキーを受け取り、ドアを開ける。大人1人が生活するのに十分な広さの部屋には、1人掛け用の革張りソファと木製スツールが置かれていて、その前方の壁には、縦にも横にもマオの背丈の二倍はある大きな鏡が取り付けられていた。
「受付はオーナーがしてくれる。お前はこの部屋で待って、客が来たらそいつの指示に従え」
「……はい」
マオの表情がみるみる曇っていく。無理もない。今からこの部屋で、大人と二人きりになって、背中をナイフで切られるのだ。
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