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リュカは、マオを縛り付けている何かを知っている。それは、弱者が度重なる理不尽から身につけた、張りぼての強さだ。
「……固く絞ったタオルで傷口を拭いてから、この薬を塗る。貴重だから大事に使え」
リュカは説明を加えながら、マオの背中を手当てしてやる。二本の切り傷はもう塞がり始めた。乳白色の塗り薬は、よく効くが国の認可は下りていない。
「はい」
「手が届かない時は見回りの大人に塗ってもらえ。もし、客が常連なら何も言わなくてもやってくれる。客を取るのは1日2人までだ。空いた時間は洗濯と施設の清掃をする」
三つ目の切り傷に清潔なガーゼを貼って、リュカはマオの手当てを完了した。
「ありがとう」
「……お前、何でナイフラヴァーをやるんだ?」
「お金が必要だから」
リュカは、答えが分かりきっている質問をしてしまった自分に、少し困惑した。目の前の少年が、自分とは程遠い場所にいるように思えた。
「だったらちゃんとしなきゃダメだ。俺たちが痛がるのを金払って見に来てるんだから」
マオが無言でこくりと大きく頷く。リュカにはそれが、頼りなく映った。ため息を吐きながら頭を掻き、マオに近づいて彼の頭を乱暴に撫でる。弟が生きていたらきっとこんな感じか、と、リュカは思った。
「いいか?痛いふりでいい。アンドロイドを騙すんだ。あいつらは痛みが分からないんだから、こっちのさじ加減で決めればいいんだ」
「……はい」
何とも歯切れの悪い返事に、リュカは呆れるのと同じくらい、はしゃいでいた。自分を必要としている存在が目の前にいる事が、単純に嬉しかった。
「仕方ないな。俺が教えてやる。しっかり覚えろ」
久しぶりに、笑えた気がした。
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